バリアフリー住宅を新築やリフォームする際、補助金を活用することで快適な住まいを手に入れる金銭的な負担を軽減できます。
国や自治体からのさまざまな補助金があるため、自分に合った補助金を受けることが大切です。
この記事では、バリアフリー住宅で使える代表的な補助金やポイントを実際の間取りを使って解説します。
バリアフリー住宅を新築やリフォームする際に押さえておくべき内容が理解できる内容になっているので、ぜひ参考にしてください。
バリアフリー改修で使える補助金について
バリアフリー改修を実施する際は「自治体」と「介護保険」の補助金を活用できます。
また、所得税や固定資産税の減額措置が設けられており、各制度のしくみを理解することで費用を抑えつつ住まいを快適にリフォームできます。
それぞれ順番に見ていきましょう。
自治体からの補助金
全国の自治体はリフォームに関する補助金制度を設けて、バリアフリー改修を支援しています。
たとえば、東京都千代田区には区内に居住する介護認定を受けていない65歳以上の人を対象に、限度額20万円を給付する「介護予防住宅改修等給付」制度があります。
利用者負担は1割で、以下の7項目を組み合わせて申請可能です。
- 手すりの取り付け
- 床段差の解消
- 滑りの防止や移動の円滑化を目的とした床材の変更
- 引き戸等への扉の取り替え
- 便器の洋式化
- 上記に必要な付帯工事
- 福祉用具(すのこ・浴用椅子・浴槽台・バスボード・トイレ用手すり)
後ほど解説する介護保険を利用した補助金は、要支援や要介護認定を受けた人が対象となるため、千代田区の制度は対象者の幅が広いと言えます。
千代田区のように各自治体では独自の支援制度を設けてバリアフリー改修を支援しています。
お住まいの地域でどのような制度があるか、役所の窓口やホームページで確認してみましょう。
介護保険からの補助金
介護保険を利用すると、要支援・要介護認定されている人の自宅を対象とする住宅改修の補助金を申請できます。
補助対象となる工事項目は、以下のとおりです。
- 手すりの取付け
- 段差の解消(※)
- 滑りの防止及び移動の円滑化等のための床又は通路面の材料の変更(※)
- 引き戸等への扉の取替え
- 洋式便器等への便器の取替え
- その他前各号の住宅改修に付帯して必要となる住宅改修
(※)法施行当初は、屋外における段差解消、床材の変更及び手すりの取付けなどの工事については、玄関ポーチの工事を除き、住宅改修費の支給対象としていなかったが、告示改正により、平成12年12月以降、玄関から道路までの(建物と一体ではない)屋外での工事も住宅改修の支給が可能となった。
リフォーム工事の前後で必要書類を提出し申請が認められれば、最大18万円が支給されます。
介護保険を利用した補助金の申請を検討する場合は、まずは担当のケアマネージャーに相談してみましょう。
所得税の控除
バリアフリー改修を実施し確定申告の際に所定の手続きをすることで、所得税の控除を受けられます。
住宅用の家屋にバリアフリー改修工事をした場合、AとBの合計額が所得税から控除されます。
- A:一定のバリアフリー改修工事に係る標準的な工事費用相当額(上限:200万円まで):10%を控除
- B:以下の合計額(Aと合計で1,000万円まで):5%を控除
- Aの工事に係る標準的な工事費用相当額のうち200万円を超える額
- A以外の一定の増改築等の費用に要した額(Aと同額を限度)
(※)ほかに交付されている補助金などは控除して計算する
「一定のバリアフリー改修工事」に含まれる工事箇所の例は、以下のとおりです。
- 玄関
- 出入り口
- 階段
- 浴室
- トイレ
- 脱衣所
所得税の軽減措置を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 申請者本人が居住用に所有している家屋
- 住宅の引渡しまたは工事完了から6か月以内に居住している
- 床面積が登記簿表示上で50㎡以上
- 店舗等併用住宅の場合は床面積の1/2以上が居住用
- 次のいずれかに該当する人
- 50歳以上
- 要介護または要支援の認定を受けている
- 障害を持っている
- いずれかと同居している(要介護または要支援の認定を受けている、障害を持っている、65歳以上の人)
- 合計所得金額が3,000万円以下
軽減措置の適用は、確定申告の際に申請します。
通常の申告書類に加えて、以下の書類の提出が必要です。
- 確定申告書
- 計算明細書
- 改修工事後の登記事項証明書等(床面積が50㎡以上であることを明らかにする書類)
- 増改築等工事証明書※増改築等工事証明書は、登録された建築士事務所に属する建築士、指定確認検査機関、登録住宅性能評価機関、住宅瑕疵担保責任保険法人のいずれかに発行を依頼して下さい。
- 介護保険の被保険者証の写し(要介護認定者、要支援認定者又はこれらの者と同居する親族の場合)等
詳しい要件や申請方法は、税務署の窓口で個別に確認しましょう。
固定資産税の減額
築10年以上が経過した住宅で一定のバリアフリー改修工事をした場合、翌年度分の固定資産税が1/3減額されます。
一定のバリアフリー改修工事とは、以下のいずれかに該当する工事を指します。
補助金などを差し引いた後に、税込50万円を超える工事費用が対象です。
- 介助用の車いすで容易に移動するために通路又は出入口の幅を拡張する工事
- 階段の設置(既存の階段の撤去を伴うものに限る。)又は改良によりその勾配を緩和する工事
- 浴室を改良する工事であって、次のいずれかに該当するもの
- 入浴又はその介助を容易に行うために浴室の床面積を増加させる工事
- 浴槽をまたぎ高さの低いものに取り替える工事
- 固定式の移乗台、踏み台その他の高齢者等の浴室の出入りを容易にする設備を設置する工事
- 高齢者等の身体の洗浄を容易にする水栓器具を設置し又は同器具に取り替える工事
- 便所を改良する工事であって、次のいずれかに該当するもの
- 排泄又はその介助を容易に行うために便所の床面積を増加させる工事
- 便器を座便式のものに取り替える工事
- 座便式の便器の座高を高くする工事
- 便所、浴室、脱衣室その他の居室及び玄関並びにこれらを結ぶ経路に手すりを取り付ける工事
- 便所、浴室、脱衣室その他の居室及び玄関並びにこれらを結ぶ経路の床の段差を解消する工事
- 出入口の戸を改良する工事であって、次のいずれかに該当するもの
- 開戸を引戸、折戸等に取り替える工事
- 開戸のドアノブをレバーハンドル等に取り替える工事
- 戸に戸車その他の戸の開閉を容易にする器具を設置する工事
- 便所、浴室、脱衣室その他の居室及び玄関並びにこれらを結ぶ経路の床の材料を滑りにくいものに取り替える工事
固定資産税の減額措置の適用を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 築10年以上が経過した家屋
- バリアフリー改修後の床面積が50㎡以上280㎡以下
- 店舗等併用住宅の場合は床面積の1/2以上が居住用(賃貸住宅部分は控除対象外)
- 次のいずれかに該当する者が居住する住宅
- 65歳以上
- 要介護又は要支援の認定を受けている
- 障害者である者のいずれかと同居している
- 対象工事の工事費用が税込50万円以上
- 令和6年3月31日までの工事完了
適用を受けるためには、工事完了日から3か月以内に、以下の書類または写しを市区町村の窓口に提出します。
- 固定資産税減額申告書
- 適用対象者の証明書(介護保険の被保険者の写し等)
- 補助金等の額が明らかな書類
- バリアフリー改修工事の内容が確認できる書類
自治体によって必要書類の内容が異なるため、窓口やホームページで詳細を把握しておきましょう。
参照:バリアフリー改修に係る固定資産税の減額措置|国土交通省
バリアフリー住宅にリフォームする際の3つの基本
バリアフリー改修工事には、基本となる3つの項目があります。
- 段差をなくす
- 転倒防止の工夫
- 温度差を少なくする
実用的なバリアフリー住宅に改修するためには、基本を押さえた工事計画の立案が重要です。
それぞれ順番に見ていきましょう。
段差をなくす
バリアフリー改修の基本は、通行の障壁となる段差を少しでも減らすことです。
住宅には、以下のように小さな段差が数多く存在します。
- 玄関
- トイレの入り口
- お風呂の入り口
- 敷居
リフォーム工事の際に段差を取り払い、足が上がりづらくなったり車イスの状態になったりしても生活しやすい環境作りを心がけましょう。
完全に段差をなくすことが難しい箇所は、手すりや踏み台を設置すると通行しやすくなります。
転倒防止の工夫
年齢を重ねるにしたがって、人間の認知機能やバランス感覚は衰えやすくなります。
消費者庁の発表したデータによると、65歳以上の高齢者が転倒した事故のうち48%が自宅で発生しています。
参照:10月10日は「転倒予防の日」、高齢者の転倒事故に注意しましょう|消費者庁
また、内閣府の調査では、要介護者に介護が必要となった原因の13%は「骨折・転倒」でした。
転倒事故が高齢者の健康に及ぼす影響は大きいでしょう。
住み慣れた自宅であっても大きなケガにつながる事故が起きる可能性があるため、転倒を防ぐ工夫が必要です。
温度差を少なくする
目に見える障壁のほかに、温度差を少なくする取り組みも重要です。
急激な温度変化によって血圧の上昇や心拍数の増加が起こると、心臓や血管に負荷がかかります。
血圧の上下による健康被害を「ヒートショック」と呼び、心筋梗塞や脳卒中といった病気を引き起こすリスクがあります。
ヒートショックを防ぐためには、廊下や洗面所など家のなかの寒い場所をあたたかく保つ工夫が必要です。
築年数が経過している住宅は床や壁の断熱性能が新築住宅に比べて低く、家のなかの寒暖差が大きい場合があります。
バリアフリー改修の際に、断熱性能の向上にも目を向けてみましょう。
バリアフリー化する場所ごとの注意点と費用相場
バリアフリー化する際は、スペースごとに気をつけるべきポイントがあります。
この章では、費用相場とともに失敗しないための注意点について解説します。
それぞれ順番に見ていきましょう。
お風呂場、洗面台
ユニットバスからユニットバスに交換する場合の費用相場の目安は、50万円から200万円です。
またユニットバスの工事に洗面所の内装や洗面台の交換を加える場合は、追加で5万円から30万円程度の費用がかかります。
年代の古いマンションなど、建物の構造によってはユニットバス入り口の段差をリフォームで解消できません。
事前にリフォーム業者の担当者に、バリアフリーにできるか構造をチェックしてもらいましょう
トイレ
便器に加えて壁紙や床材を交換する場合は、およそ10万円から40万円の費用がかかります。
手すりを設置する際は、引っ張っても問題ないよう下地に強度がある箇所に固定しなければなりません。
しかし、トイレは空間がさほど広くないため、下地のある位置と設置したい場所がずれる可能性があります。
固定用の補強板を使うなど、トイレに手すりを後付けする際は、強度を確保しつつ必要な場所に設置できるよう工夫しましょう。
リビング、キッチン
システムキッチンの交換は50万円から150万円、間取りを含むLDK改修工事は250万円以上が費用の目安になります。
キッチンのバリアフリー化を目指す場合は、座ったまま作業できるバリアフリー対応のキッチンを選ぶのが効果的です。
1センチごとにカウンターの高さを変更できるため、ショールームで自身に合った高さを採寸しておきましょう。
リビングやキッチンは、施工範囲や内容によって工事費用が大きく異なります。
どれくらいの予算でリフォームするのか明確にした上で、プロに見積もりを依頼しましょう。
玄関、廊下
玄関ドアを交換する際、上から新しいドア枠をかぶせてリフォームする「カバー工法」と呼ばれる方法を使う場合があります。
ただ、カバー工法はかぶせる厚みだけ玄関の通路幅が狭くなるため、車イスやベビーカーが通りづらくなってしまいます。
施工前にリフォーム後の寸法を計算して、通行に問題ないか確認しておきましょう。
カバー工法を使った玄関ドアの交換は、およそ100万円の費用がかかります。
階段
階段をリニューアルする際、既存の上から踏み板を貼り付けて施工する「リフォーム階段」を提案される場合があります。
費用を抑えながらリフォームできる一方で、貼り付ける踏み板の厚みだけ段の高さが変わってしまいます。
年齢につれて目視で距離感をつかむ能力が衰えるため、住み慣れた家で階段の高さが変わると転倒の原因になるでしょう。
バリアフリー化を目指す場合は、リフォーム階段を使用しないほうが無難です。
オール電化の検討
オール電化を検討する際は、調理器具が限定される点に注意が必要です。
IHクッキングヒーターは電磁波を使って熱を発生させるため、鍋の底部分だけが熱くなります。
そのため、中華鍋をガスで熱したときとは異なり、側面まで熱が行き渡りません。
炒め物など特定の料理には不向きである点は、考慮しておきましょう。
家全体をオール電化にするためには、エコキュートの導入などでおよそ100万円の費用がかかります。
新築する際に意識したいポイント
この章ではリフォームから新築に視点を移して、バリアフリー住宅を建てる際に意識したい以下のポイントについて解説します。
- 生活空間が1階だけで完結するのが理想
- 要介護者の寝室の近くにトイレ、浴室を
- 通路は広めに、段差は極力少なく
リフォームに比べて構造上の制約が少ないため、ポイントを押さえておくことでバリアフリー化が実現しやすくなります。それぞれ順番に見ていきましょう。
生活空間が1階だけで完結するのが理想
年齢とともに足腰の筋肉は衰えていくため、階段の上り下りは高齢者にとって負荷が大きい作業です。
1階に生活空間をまとめることで、足腰の負担を和らげ少ない移動で生活できるようになります。
二世帯住宅の場合は、1階を親世帯、2階より上を子ども世帯とすみ分けるのも1つの方法です。
要介護者の寝室の近くにトイレ、浴室を
要介護者を在宅で介護する場合には、水回りの介助について多くの悩みが寄せられます。
起き上がり介助やおむつの交換など、介護中に家族側が足や腰を痛めるケースがあるからです。
トイレや浴室は要介護者の寝室付近に配置し、介助の負担を減らせるよう間取りを工夫しましょう。
通路は広めに、段差は極力少なく
車イスの幅は手動車椅子で630mm以下、電動車椅子で700mm以下とJIS規格で定められています。
余裕を持って通路を通るためには、80㎝から90㎝の通路幅を確保しておくことが重要です。
また、室内の段差は極力少なくなるよう、家全体の床の高さを確認しておきましょう。
ドアの下枠があると段差ができてしまうため、バリアフリーを目指す場合はノンレールで設置できる開き戸や引き戸を中心に採用するのが効果的です。
バリアフリー対応住宅を新築する場合の間取り例
敷地面積20坪と30坪で実際に建てられた住宅を例に、バリアフリーのポイントを解説します。
自身の住宅で間取りを検討する際の、参考にしてみてください。
20坪で建てる場合
【1F】
【2F】
【3F】
1階に親世帯のスペースを集約した、敷地面積18.9坪の3階建て住宅です。
1階と2階にそれぞれ水回りスペースが設けられており、階を移動せずに生活できる動線になっています。
30坪で建てる場合
【1F】
【2F】
一人暮らしの母親との同居を想定した、敷地面積30坪の2階建て住宅です。
母親が使う1階の居室の近くにトイレやお風呂が配置されており、少ない移動で水回りにアクセスできるよう配慮されています。
ウォークインクローゼットには扉を設けないなど、玄関から段差なしで各スペースに入れるよう工夫されています。
バリアフリー住宅に関するよくある質問
バリアフリー住宅に関して、多く寄せられる質問をまとめています。
建てる前に知っておきたい知識が詰まっているので、ぜひチェックしてみてください。
普通の住宅に比べて、バリアフリー住宅は費用が高くなりますか?
一般的に、バリアフリー住宅は普通の住宅よりも建設費が高くなる傾向にあります。
ただし、近年ではバリアフリーが標準仕様となっている住宅メーカーが増えているため、特別なオプション工事を減らせる可能性があります。
また、国や自治体などの補助金制度を利用することで、費用の軽減が可能です。
エレベーターの設置にはどれくらいの費用がかかりますか?
本体価格や設置費用、申請費用などを含めるとおよそ300万円から500万円程度かかります。
本体価格はエレベーターの定員や機能によって異なるため、住宅メーカーの担当者に確認してみましょう。
いますぐ必要でなくてもバリアフリーを意識した家づくりをするべきでしょうか?
バリアフリー住宅は、年齢や健康状態によって必要になります。
たとえ現在必要ではなくても、30年以上住み続ける想定で機能や設備を導入することが重要です。
また、将来のリフォームに対して柔軟に対応できるような間取りを意識しましょう。
まとめ
バリアフリーを意識した家づくりは、マイホームに長く快適に住み続ける上で重要な取り組みです。
費用の負担は、補助金や助成金の制度を活用することで軽減できます。
バリアフリーの基本を意識して、実用性の高い家づくりを目指しましょう。